木造建築とデザイン

木造建築というと、日本人にとっては最も身近な存在で、一般戸建て住宅はほとんど木造といってもいいぐらい、恐らくはみなさんもマイホームを建てるとなると木造住宅を思い浮かべる方がほとんどじゃないでしょうか。選択肢としては鉄骨造や鉄筋コンクリート造もあり、耐久性ではそちらに分があると思いますが、やはりコストの面等で木造を選択するのが一般的かなと思います。

しかし、木造建築には法的な落とし穴があり、2階建て以下、500㎡以下(4号建築物)であれば構造計算しなくてよい、建築基準法上の最低限の基準「仕様規定」を守ればよいことになっていて、その基準に大きな問題があると考えております。仕様規定には耐力壁の最低限の量はありますが、どのような配置であろうが、上下階が揃わずめちゃくちゃな構造であっても、法的にはOKとなってしまうことができます。これは鉄骨や鉄筋コンクリート造ではありえない現象なのです。柱の上が柱、壁の上が壁、これが絶対的な法則なのですが、木造だけはそうはなってないのです。※全部が全部100%上下が揃ってないといけないということではないです

また、仕様規定では梁の大きさについては最低限の基準も定められておりませんので、許容応力度計算によっていないものは勘で決めてると思ってよいです。手練れの大工さんの感覚は信頼性もありますし、業界内の積み重ねてきた常識のようなものもあって、梁についてはある程度勘でもクリアできてることが多いです。基礎についても、仕様規定では最低基準(強度ではなく作り方の)しかありませんので、許容応力度計算によらなければ適当となります。梁については許容応力度計算すると勘より材が小さくなることが多いですが、基礎はクリアすることはほぼありません。

上記のような不安はありますが、仕様規定を守っていれば違法ではありませんのでお間違いなく。仕様規定の前提は「震度7でも逃げれる=最低限命は守れるが家は倒れるかも」です。

こういった現状をふまえて、2025には建築基準法が改正されて基準の水準がちょっと上がりますが、どうも梁成や基礎などは変わらずで、耐力壁の壁量がちょっと増えるのと、建築確認で仕様規定の壁量計算のチェックが入ることになるようですので、最低限、仕様規定遵守は担保されるようになるのかなと思います。現在の法律では、例え建築確認を受けていたとしても、仕様規定すら守られていなくても確認も下りるし検査済証も出てしまうことができるので、そこは一歩前進かと思います。

自分が熊本大学の建築学科に入学して最初に教えられたのは、「建築」というものの起源は、自然の猛威から「命を守る箱」から始まった、ということでした。しかし、現在の木造住宅(ほぼ4号建築物)では、構造の安全性の優先順位が非常に低くなっており、建築としての前提が崩れているといっても過言ではないです。

そこで、どのような検討をすれば安全性が担保できるかというと、現行の制度上では、品確法の「耐震等級3」程度の検討をすれば、ある程度担保できると思います。熊本の震災でも、耐震等級3の家は1軒も倒壊していないとのことですので、実績的にも基準としては妥当ではないかと思います。できれば許容応力度計算によれば尚よしです。

3.11や熊本地震を経て、また、来るべき南海トラフ地震を想定したときに、当事務所もデザイン性は重んじておりますが、構造という前提があっての話ですので、「許容応力度計算によって等級3を実現できる」を前提にデザインを考えております。構造の前提が無いと、ヨレヨレのチラシの裏に一生懸命かっこいい絵を描いてるようなもので、どうせならしっかりしたキャンバスに描いて末永く楽しんだ方がよくないですか?アートであればむしろチラシの裏の方がアート性があるということもありえますが、アートはアート、建築は建築だと思います。